2015.12.04 Friday

018 何のための調査なのか、調査の目的は何なのか - vol.1

組織委員会の調査の依頼を、11月30日に辞退しました。かねてより、審査委員の責務として調査は受けるべきだと考えていましたし、それ以前のこととして、白紙撤回となった直後より、調査すべきであるとの考えのもと、組織委員会の担当者に対し、水面下でそのことを訴えておりました。ですので、このような態度を表明してきた私が辞退したことについて、説明しなければならないと考えております。この章から複数回にわたり、調査の依頼から辞退までの経緯とともに、辞退の理由について記述していきながら、調査について考察したいと思います。

2015年10月29日、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会総務局のリスクマネジメント部に所属する□□さんより、聞き取り調査への協力依頼のメールが入りましたので、同日に、「前回審査の審査委員として協力を惜しみません。どうかよろしくお願いいたします。」という文言とともに、調査を受ける意向を返信いたしました。しかし、調査依頼を受諾したあとに、インターネットの公的なニュースで調査に関する記事を見つけ、読みましたところ、調査依頼のメールには記述されていなかった、いくつかの気になることが書いてありました。その記事には、聞き取り調査を申し入れても断ることはでき、強制力はないため、どこまで真相に迫れるかどうかは定かではなく、不正な選考があった場合でも処分を科せるかどうかについても未定だということが書かれており(日刊スポーツ電子版10月29日)、調査には強制力がないとのことが記されていました。そして、調査を担当する外部有識者の名前とともに、その方々の専門分野がわかるように職業名が記載されていましたが、外部有識者と聞いていたにもかかわらず、エンブレム選考委員が含まれていることも知りました。調査を依頼する相手に対して、依頼時に伝えなければならないはずの調査の方針や内容、外部有識者の氏名などの必要な情報が何も記載されていない不明瞭な依頼であったということに、マスコミの記事を読んで気が付いたのです。これらの重要な内容についてすでに記者発表されているということは、調査依頼時にも決まっていた事柄だと思います。では、なぜ、そのような大切な情報を、依頼時に伝えていただけないのか、組織委員会の真意はわかりませんが、改めて、正式な依頼書や詳細情報を書面でお送りいただくようお願いし、受け取った正式書類の内容を確認し、調査の主旨や方法が理解できるまで、調査依頼の受諾をいったん白紙に戻したいということを、11月1日に伝えました。

五輪エンブレムに関するやりとりを経て、組織委員会の方法論は常にぶれないのだということを感じています。明確な文言で表わしてもらえず、曖昧な表現の文言によるやりとりが続くために、理解するまでに、通常のやりとりの何倍もの労力を要することになりますし、気持ちの悪さが残ります。

組織委員会の担当者の調査依頼メールには、‥‥組織委員会といたしましては、これまでの内部調査で、作品の管理、審査会での匿名性の確保など公正に行われていたと考えておりますが、‥‥今回の調査によって組織委員会に対する不信感の払拭に力を尽くしたいと考えております。‥‥と述べてあり、調査前にもかかわらず、すでに結論ありきの態度が見えており、調査をしていない段階で言う言葉なのか、疑念を拭うことができませんでした。この文章の言葉どうり、組織委員会の調査の目的が、組織委員会への不信感の払拭という、自己保身が前提の調査であるならば、導く結果は見えていると思います。調査を行う側も受ける側も、自己保身や自己防衛の発想から脱却しなければ、調査で導かれる結果は、意味のないものとなるでしょう。このように、組織委員会が主導する調査の目的は何なのか、何のための調査なのかを推考するために、質問を重ね、調査の方針や方法を確認しようとしましたが、結局、調査の目的を理解することができませんでしたために、最終的に、調査結果に対して責任を負うことができないとの結論が出て、辞退することを決めました。

私が考える、本来的な調査の目的は、問題の原因を探求解明し、原因が確認できれば責任者が責任をとり、反省の時を経て、再発防止につなげることにあるのだと考えますし、そのためには、適正な調査方法を投じることになろうかと考えます。今回、組織委員会が設定した調査期間は1ヶ月という短さであり、調査方法も、外部有識者という体裁をとりながら、組織委員会主導の調査であることは歴然であり、方法論も関係者への任意の聞き取りのみとなっておりますので、ほんとうにこのような安易な方法で、複数の人や企業の思惑が介在するであろう、五輪エンブレム問題の、いったい何がわかるというのでしょう。すでに1年以上も前の出来事の、記憶を辿りながらの聞き取り調査の信憑性を、だれが保証するというのでしょう。今回の問題では、調査対象者以外にも、多くの人が関わっていますので、聞き取り調査の対象者の人選も、充分だとは思いません。関係者の中でも、当事者ではなく客観的な立場の人からの方が、事実を聞き取れる可能性があるのではないかとも考えます。書類やメールといった物理的な記録や証拠も、多数残っているはずで、物証からの事実の積み上げという、信憑性の高い確実な方法を講じなくても良いのでしょうか。これらのことを考えてみても、調査の目的が原因究明や問題解決に向かっているようには思えず、任意による聞き取り調査という方法が適正であるとの見解に、どうしても同意できませんでした。組織委員会がイメージする調査の目的が何なのか、調査結果や調査報告書を見れば、きっとそのときにわかることでしょう。

「任意」という言葉を辞書で調べると、「思いのままに任せること。その人の自由意志に任せること。」と記してありました。
 
平野敬子
 
平野敬子 デザイナー/ビジョナー コミュニケーションデザイン研究所 所長
白紙撤回となった2020東京五輪エンブレムの審査委員を務める

五輪エンブレム問題の
事実と考察
001 責任がとれる方法で 002 公募期間の短さ 003 『展開』『展開性』『展開力』 004 知らされなかった招待作家 005 ブログを読んで下さっているみなさまへ 006 利害優先の土壌 007 修正案承諾拒否の経緯と理由 - vol.1 008 修正案承諾拒否の経緯と理由 - vol.2 009 『公』の仕事 010 専門家の盾 011 秘密保持誓約書という密室 012 いまこそ、私心なき専門性を問う 013 判断の論拠 014 最終の審議 015 金銭感覚と敬意の相対性 016 表現におけるモラリティと表現者のモラル 017 言葉のちから 018 何のための調査なのか、調査の目的は何なのか - vol.1 019 何のための調査なのか、調査の目的は何なのか - vol.2 020 何のための調査なのか、調査の目的は何なのか - vol.3 021 何のための調査なのか、調査の目的は何なのか - vol.4 022 願い 023 摩訶不思議な調査報告書 024 負の遺産とならないように 025 出口なき迷路 026 届かぬ思い 027「社会に位置づくデザイン」という観点 028 無責任主義の村 029 審査委員として知り得た情報のすべて 030 新聞寄稿文への異論 - vol.1 031 新聞寄稿文への異論 - vol.2 032 1対3の構図 - 「A案」VS「BCD案」 033 今を生きる 034 負の連鎖……を断つために 035 欲望の公害 精神の断絶 036 イカサマ文書 by JAGDA - vol.1 037 イカサマ文書 by JAGDA - vol.2 038 イカサマ文書 by JAGDA - vol.3 039 事実はひとつ 040 新世界へ 041 JAGDA文書への意見と要望 ― 法律の専門家による分析 042 JAGDAの回答 JAGDAへの要望書 043 「要望書へのJAGDAの回答」に対する更なる質問 044 「意見書へのJAGDAの回答」に対する質問と提案 045 ブラック・デザイン
Tokyo 2020 Olympics Logo Controversy--Facts and Observations 001 My way of taking responsibility 002 Duration of contest was way short 003 “Development” “Development Capabilities” “Development Power” 004 Guest artists I wasn’t told about 005 To My Readers 006 A culture where special interests take priority 007 How and why I refused to accept the modified design - vol.1 008 How and why I refused to accept the modified design - vol.2 009 Strictly “public” work 010 Specialists as shields 011 Behind closed doors-secrecy surrounding a non-disclosure agreement 012 Time to put selfless expertise to the test 013 Rationale behind my decision 014 The final review session 015 Is the money mindset relative to paying respect? 016 Morality of expression and the morals of its creator 017 The power of words 018 An investigation for what? What is the purpose of the investigation - vol.1 019 An investigation for what? What is the purpose of the investigation - vol.2 020 An investigation for what? What is the purpose of the investigation - vol.3 021 An investigation for what? What is the purpose of the investigation - vol.4 022 My wish 023 Mystifying investigation report is out 024 In order to prevent a negative legacy 025 Stuck in a maze with no exit 026 A voice unheard 027 A viewpoint that calls for “design with a place in society” 028 A village with a policy of irresponsibility 029 Every piece of information that I garnered as a judge on the selection committee 030 Objections to a newspaper contribution - vol.1 031 Objections to a newspaper contribution - vol.2 032 The underlying picture of one against three - “Plan A” versus “Plans BCD” 033 Living in the moment 034 Putting a stop……to a negative chain of events 035 Pollution by greed and discontinuity of the spirit 036 Bogus document by JAGDA - vol.1 037 Bogus document by JAGDA - vol.2 038 Bogus document by JAGDA - vol.3 039 Every fact has only one version 040 Toward a whole new world 041 Opinion and request regarding JAGDA document―An analysis by a legal specialist 042 Reply from JAGDA Request letter to JAGDA 043 More questions re: "Reply from JAGDA regarding Request Letter" 044 Questions and proposal re: "Reply from JAGDA regarding Request Letter" 045 Rogue design