2016.04.09 Saturday

032 1対3の構図 - 「A案」VS「BCD案」

2016年4月8日、五輪エンブレムの最終候補4作品が発表されました。公開されたA、B、C、Dの4つのデザイン案が並んでいる様子を見て、デザインの特徴から「A案」と「BCD案」という1対3の構図に見えました。4案の中で1案を選ぶという方法論において、先頭に配置された1案だけが際立つ見え方は不適切であり、「A案」ありきのプレゼンテーションだと受け取りました。

発表された4案が、「A案」と「BCD案」というふたつのグループに分けられる理由と根拠を記します。

(1)色彩
「A案」は、エンブレムと「TOKYO 2020」のロゴタイプを日本の伝統色の藍色のワントーンで表現。無彩色に近い色相による落ち着いた印象。
「BCD案」は、赤と金を基調色とし、緑や青などの有彩色を加え、五輪マークの色彩の印象を登用し、祝祭感を表現している。
第一印象として色が与える影響はデザイン要素の中で最も大きいと言える。そういった意味で、「B案」「C案」「D案」3案の色の印象が近いため、ワントーンで落ち着いた色の「A案」が差別化して見える。

(2)基本形状
「A案」は、正円。オリンピック・エンブレムは左右対称形ではないものの、左右対称形のような印象に見える。パラリンピック・エンブレムは左右対称形。
「BCD案」は、多様で有機的。左右非対称形。
前回コンペの選考では、パラリンピック・エンブレムにとって非対称であることは不利であるはずだが。

(3)造形モティーフ
「A案」は、市松という伝統的な文様を引用した抽象表現。静的な印象。
「BCD案」の「B案」は人、「C案」は風神雷神、「D案」は朝顔という、それぞれに具象モティーフを用いた表現。動的な印象。

(4)コンセプト
「A案」は、江戸時代の伝統的な模様と日本の伝統色を用い、日本らしさを主張したコンセプト。
「BCD案」は、3案共に「自己ベスト」という文言を使用し、スポーツの躍動感やスポーツ選手を讃えるという、スポーツを軸としたオリンピックらしさを主張したコンセプト。

「A案」は、日本の伝統文化を中心的なテーマとし、日本の伝統的なデザイン様式を登用しており、つまり「A案」の、スポーツという要素をいっさい含まずに日本の伝統様式が表現されたプランと、「BCD案」の、スポーツをテーマとして表現されたプランとの静と動の対比となっています。

複数のデザイン・プランの嗜好を分析する場合、精度を求める調査では、「A・B・C・D」や「1・2・3・4」という順列を示す記号は用いません。なぜならば、記号の順列が心理に影響を及ぼし、調査結果に影響するからです。ですので通常は、例えば「K・G・l・M」といったランダムな、相互の関係性に意味が生じない記号を用いることが適切とされ、この方法によって公平かつ精度の高い調査結果が得られることとなります。今回の五輪エンブレム4案発表の構図を見る限りにおいては、デザインとしての良し悪しの問題以前のこととして、比較論として「A案」が選ばれやすい状況が整っている、つまり「A案」に特別な優位性が与えられた不平等な発表形式であると受け取りました。

「A案」がオリンピックに相応しいデザインかどうかという観点は別として、専門的な見知としては、エンブレム委員のグラフィックデザイン専門家が「BCD案」を押すということは考えづらいと思います。ですので、エンブレム委員のグラフィックデザイン専門家の中では「A案」ありきの審査結果だと分析しています。

すでにネット上ではどの案が良いという意見が出ていますが、注意しなければならないのは、今回のコンペは国民投票で決まるのではありません。結果的にエンブレム委員会が選ぶ以上、今回コンペも国民の総意ではないということだけは見誤らないようにしなければなりません。

以上の考察から、私は4案の中のどれが良いかという論議には参加いたしません。
 
平野敬子


[修正の報告]
ブログ032章を更新した9日(土)に、面識のないデザイナーの方から、「シンメトリー」の定義に対する私の認識不足をご指摘下さる連絡をいただきました。その後、インターネット上にも間違いをご指摘下さる発言がありましたので、文章を再考し、修正した文章を4月12日に更新しましたことを報告いたします。間違いをご指摘下さいましたみなさまへ、感謝申し上げます。
 
平野敬子
2016年4月12日
 

平野敬子 デザイナー/ビジョナー コミュニケーションデザイン研究所 所長
白紙撤回となった2020東京五輪エンブレムの審査委員を務める

五輪エンブレム問題の
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